コルナゴ部長こと中尾公一さんよりレポートをいただきました。
今回は、波野、坂梨、宮地を結ぶ「願成就坂」のご紹介です。
新たな牧野ガイドの現地講習会を兼ねて、MTBやE-MTBによる草原ライドと、トレッキングを合わせたプランを試してみた。町古閑牧野の北側の古道の入口までMTBで行ってそこから歩きで山道を下った。案内するのは町古閑牧野で働く19歳になったばかりのショウ君こと釜崎笙君。彼は農林業のかたわら牧野ガイドやサイクルガイドを提供する「あそたんガイドツアーズ」をスタートした。今まで何度も一緒に仕事をしてきたが、牧野のことや自然環境のこと、それに地球の歴史のことなど、50歳も60歳も年上の牧野組合の方から学んでいる頼もしい人材だ。
牧野のゲートにMTBを置いてトレッキング、山歩きのスタート。しばらく林の中を通り砂防ダムの工事で使われた道を進み林道に出ると穏やかな山歩きが新鮮だった。急に開けたところに出ると看板があり、2012年の北部九州豪雨により、寛大な被害が出た坂梨地区の土石流の上(一の宮坂梨字龍神)であることを示していた。谷の先に見えるのは国道57号、265号や滝室坂に比べると麓まですごく近い。
黄色の枠の中が町古閑牧野となり、真下が265号の箱石峠、今回下ったのは上から5番目の「願成就坂」。
この山道は願成就坂(がんじょうじゅざか)という波野の牧野と坂梨から宮地を結ぶ古道である。その面影であろう、人の手により山を掘削した切通しの箇所はいくつも続いた。
ネットに検索していたら『波野の女学生が願成就坂を通って「神山学院」に通学していた・・』とあったので、いつもお世話になっている波野の郷土史家 岩下平助さんにお聞きすると、車やバスの時代が阿蘇に来るまで人や牛馬も往来する貴重な生活道であり、確かに波野の女学生が急な坂が続く願成就坂を通って神山学院に通学をしていたとのことだった。波野と宮地を結ぶ最短の道になるが、それでも片道2時間はかかっていたという。
神山学院とは、1902年(明治35年)阿蘇で最初の女性の教育機関として開校された「私立宮地裁縫女学院」である。のちに設立者である一の宮町坂梨の神山エツ(コウヤマエツ)の名前から「神山学院」と校名変更され、1977年(昭和52年)で閉校されるまで約5000人以上の女子生徒が学んだという。当時の女性に必要欠くことのできない裁縫、阿蘇の女学生には何より教育の場であったのだろう。
この校舎が私立宮地裁縫女学院、のちの神山学院であり、1937年(昭和12年)阿蘇神社から門前町商店街を通り5分ほど歩いたこの地に新校舎が開かれた。現在は「旧洋裁女学校跡」と言われ、カフェやアンティークショップなど、明治の木造校舎をそのまま利用したお洒落なスポットになっている。
下りるのに従って道は荒れてくる。この先に何があるのだろうという期待感と、当時の女学生の通学の苦労には驚くばかりだ。
地図を見るとこの真下付近に山を貫く豊肥本線の願成就トンネルがあるようだ。熊本と大分を結ぶ豊肥本線は1928年(昭和3年)に全線が開通した。この道を歩いて通う波野方面の神山学院の通う女学生は、1902年(明治35年)の開校からやっと列車による通学が出来るようになった。
水害や地震によってここから願成就坂の道が消えたがショウ君が安全なルートを案内して林の中を降りて行く。
杉林の斜面を下ると少し開けたところに着くと右奥に石像があった。台座の「享保4」と「11月18日坂梨村」は読み取れた。
開けたところの岩の下のくぼみに2つの石像があった。「五十二バン」とあり坂梨村八十八カ所霊場の五十二バ番礼所であり弘法大師と十一面観音菩薩の石像のようだった。崖崩れの多い斜面で下のセメントの様子から地震や水害で移動されたようであった。願成就坂の道はこれから先、完全に崩壊しているようだが、それでも麓から熱心に訪ねる人がいるようですっきりとしていた。
辺りを見渡すと小さな広場のようになって、当時は雑木もなく阿蘇谷を一望できる休憩スポットだったのだろう。明治、大正、昭和の時代に、貴重な洋裁の技術を学ぶ波野の女学生が朝な夕な通って、ここに座っておしゃべりをしていたのだろうか。当時の洋裁学校の校舎も現存しその教室では食事やお茶を楽しむことができる。そんなことを思うと女学生の足跡を巡る歴史の道として残していきたい、そんな感傷的な気分になった。
「この先からはガレ場になりますので少し危険です」とショウ君。坂の麓になる浄土寺牧公園まで本来なら800mほどだが、時間を掛けて下ってもMTBを置いたところまで登らなくてはならないので引き返すことにした。かなり降りてきたと思ったが帰りは意外と早く着いた。案外こんなものである。行きは長く、帰りは早い。
MTBに乗ると今まで歩きだったので、その速さと快適さが新鮮でちょっと感動だった。今回の町古閑牧野からMTBとトレッキングを合わせたプランは、機動性ある山歩きが楽しめて快適で冒険心をくすぐるものだった。他にもこのような古道や、外輪山と阿蘇谷を結ぶ、人や牛が一緒に歩いた「草の道」もあるようなので、自転車と歩きを組み合わせたプランの検証をこれからも続けて行こうと思う。
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