阿蘇開拓の恩人、健磐龍命と鬼八の伝説から始まった「火焚神事」

黄金の稲穂が波打つ実りの秋を迎えました。
立派に実った阿蘇のお米を早霜から守るために始まった、阿蘇の農耕祭事の一つ「火焚神事」が今年も8月19日から始まりました。
今年の火焚き乙女に選ばれたのは、地元の阿蘇市立阿蘇小学校4年生の藏本りんさんです。大役に選ばれたりんさんは、火焚神事が始まった謂れの神話を読みこの日に臨みました。

鬼八と的石の話
 健磐龍命は弓の達人で、往生岳に腰をおろし、北外輪山の大きな石(的石)に向かって毎日100本の矢を放っていました。矢取りを命じられたのは家来の鬼八。命が1本矢を放つごとに外輪山の的石まで取りに行き、命へお届けし、また放たれた矢を外輪山に取りに行って・・・という作業を続けていましたが、ある日、1本ずつお届けするのが面倒になり、とうとう鬼八は命の放った矢を足で蹴り返してしまいました。それを見た命はご立腹され、鬼八を追うことにし、宮崎県の高千穂まで追いつ、追われつ命は鬼八を斬りつけました。しかし鬼八の首や胴は斬ってもまた元通りになるので、命はとうとう、首や胴や手足をバラバラにして埋め、ようやく鬼八を退治することができました。その時鬼八は、「阿蘇谷に霜を降らし、この怨みを晴らしてやる・・・」と言い残して命絶えたそうです。
 そのためか阿蘇地方では、時ならぬときに雪や霜が降り里人たちは大変困りました。それを見た命は「鬼八よ、お前を神として祀るからどうかゆるしておくれ・・・」というと「斬られたところが痛むから温めてほしい」と頼まれたそうです。そこで命は阿蘇谷の中心に霜宮を建立し、毎年8月19日から60日間火焚殿に鬼八のご神体を移し、火を絶やさないように焚き続けるという「火焚神事」が始まりました。

今年もコロナウィルス感染拡大防止のため主要神事のみ行いましたが、昔は火焚き乙女に選ばれた少女は1歩も外に出てはいけないという掟があり、2学期が始まっても学校にも行けず、先生が火焚殿へ出張して授業をしていたそうです。

(写真奥が火焚殿。神事の期間中は、火焚乙女は火焚殿(境内)から一歩も出ることが出来なかった)
当日は、氏子の皆さまが朝から準備をされていました。

準備がひと段落しお話を伺うと、長年の経験者の方ばかりで「おいがとこん娘んときは学校行きよった(私の娘の時代は学校に行ってたよ)」や「おいが姉さんの時はほんなこてあっから出られじゃったけんね~(私のお姉さんの時は本当にあの鳥居から先へは行けなかったからね)」など教えてくださいました。どれほど昔から、地域の方が「伝統行事をしっかりと受け継ぎ守られている」ということが良くわかりました。

(作業がひと段落し、火焚神事が始まるのを待つ氏子の皆さま)
火焚神事開催中は火焚殿が解放され、一般の方も中を見学できますが、今年は主要神事のみなので開放はしていません。

            ↑↑普段の火焚殿

            ↑↑火焚神事の日。
火焚き乙女、藏本りんさんが登場しました。

いよいよ2022年の火焚神事が始まります。

鬼八を温めるための炎も、次第に勢いよく上がり始めます。

介添え役は、りんさんのおばあ様、けみ子さんです。
火焚きを行うときは、乙女のおばあさまも重要です。乙女が学校に行っている間、介添え役のおばあ様が火を守らなければなりません。乙女役はこの地域に生まれたというだけでなく、おばあさまが居るからこそ選ばれるという名誉ある行事です。
藏本家の方々にとっても初めての役割だったそうで、ご家族の皆さまもしっかりと見守っておられました。

ご神体を温めるための炎も安定しました。
次に、鬼八のご神体を霜神社から火焚殿へ移すための神事を行います。

奥に見えているのが霜神社です。

火焚き乙女から氏子代表まで、順番にお一人ずつ玉串を奉納しました。
玉串奉納を終えると、本来なら奥に見える神輿にご神体を載せて担いでいくのですが、現在は、コロナ禍の密を避けるためにリヤカーで運びます。
これより一行は、今一度火焚殿へ向かいます。

朝からはあいにくの雨模様でしたが、天気も回復し、神事の最中はご覧のように傘の出番はありませんでした。地域の方に過去のお天気を伺うと、火焚神事の日はお天気に恵まれることが多いとの事でした。
また、霜宮のご神体は北斗七星で、7個の石だったそうです。しかし明治の終わりごろ確かめてみたところ、4個しかなかったので、坊中(道の駅阿蘇あたり)の踊山神社から神石を3個受けて7個のご神体にしたという記録があります。そのため祭りには、7本のご幣(写真では分かりにくいですが、7名の方が御幣を持っています)と供物も7つとなっているそうです。火焚殿に鬼八を安置する際、御幣の数にご注目ください。
霜神社から火焚殿までは約200メートル程です。
一行の行列が、火焚殿に到着しました。

鬼八のご神体は、無事、火焚殿の中二階に安置されました。

最後に今一度、火焚殿にて神事を行い2022年の火焚神事が滞りなく終了しました。

宮川宮司も、「正規の神事を考えていたがコロナの感染拡大防止のため主要神事のみとなりましたが伝統の神事を続けることが大事」と話されていました。
今回お話を伺ったサテライト代表 山口哲廣さんは、

「輪番制で回ってくる火焚神事ですが、現在は地区全体が少子高齢化に伴い火焚き乙女を捜すのが大変です。乙女だけでなく介添え役の祖母にも重要な役割がある。24時間×60日という長い日数ですが、これからも伝統を継承し、後世へ繋いでいけるよう頑張るだけです。」とお話しくださいました。
今年も阿蘇のお米が冷害に悩まされることなく、スクスクと立派に育つのも上役犬原・下役犬原・竹原地区の氏子の皆様がしっかりと神事を執り行っていただけているおかげだと感謝し、秋の実りのおいしいお米を頂きます。

 

 

 

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